現地レポート

【現地レポート①】唯一の 3 年生が残したもの

2021年1月4日

 負けて、悔しさがないと言えば嘘になる。しかし最後までやりきった。松徳学院中学 (島根) のバスケットボールを貫いたことに後悔はない。

「Jr.ウインターカップ2020-21 2020年度 第 1 回 全国 U15 バスケットボール選手権大会 (大会呼称:Jr.ウインターカップ2020-21)」が幕を開けた。そのオープニングゲームの 1 つが松徳学院中学と京都精華学園 (京都) の対戦だった。結果は50-95の完敗だったが、チームを率いる野津隆行ヘッドコーチは試合後にこう振り返る。
「京都精華学園は留学生もいますし、サイズの大きいチーム。ですから勝つことよりも練習してきていることをしっかりできるかどうか、自分たちのバスケットをできるかどうか、そして下のルーズボールをどれだけ頑張れるかにポイントに置いてきました。試合は負けましたが、ポイントに置いてきたことはある程度やれたかなという気持ちでいます」

 ゲームは序盤から京都精華学園のセンター、187センチのディマロ ジェシカ ワリエビモ エレに制空権を握られてしまう。オフェンスもなかなか得点に結びつかず、ようやく最初の得点を決めたのは試合開始から 4 分以上経過したときだった。
 決めたのは、唯一の 3 年生、廣田陽芽葉である。
 実は松徳学院中学には廣田を含めて 3 人の 3 年生がいた。しかしケガや様々な事情で一足先に引退している。廣田は残った理由をこう語る。
「最初は全中 (全国中学校バスケットボール大会) が目標だったけど、コロナでなくなってしまって……でも個人的には全国を経験して終わりたいなと思っていたので、周りの 3 年生が引退しても、自分は残ろうと最初から決めていました」

 今年の松徳学院中学は廣田たちの代になってからは県内負けなし。それだけに全中の中止は、新型コロナウイルスの影響とはいえ、やはり子どもたちの心に大きな傷跡を残した。それでも廣田は立ち上がって、戦い続けた。県予選は、それまでとは異なる苦戦も強いられたが、なんとか勝ち抜いた。その勝因を野津ヘッドコーチは「意地です。意地で勝ち抜いたという感じです」と振り返っている。
 意地で勝ち取った Jr.ウインターカップ2020-21 は苦い結果となったが、このかけがえのない経験は廣田にとっても、下級生たちにとっても大きな財産となるはずだ。もちろん “松徳学院” としても。
 松徳学院を括弧で括ったのには理由がある。約 1 週間前に幕を閉じた高校生のウインターカップにも松徳学院高校が初出場を果たしているからだ。
「中高ともに県 1 位をとって『ウインターカップ』に出られたことは松徳としてすごくうれしいことです。私の下で頑張っていた子たちが高校で結果を出して、私たちも一緒に頑張っていることがアピールできたと思います」
 野津コーチがそういえば、廣田も続く。
「先輩たちと一緒に『ウインターカップ』に出られてうれしいです」

 敗れるのには理由がある。しかしその理由から逃げずに挑み続ければ、いつか大きな壁をもぶち抜けるときが来る。
「3 年間最後の試合だったから……悔いが残らないようにしようと思っていたので、楽しんでできました」
 涙を湛えながら笑顔でそう語った廣田に松徳学院中学の強さを見た気がする。

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