現地レポート

【現地レポート④】名将のラストダンスは終わらない

2021年1月5日

 途中にひとつだけ「ハァ~」とため息を入れた 9 秒の沈黙。その後に絞り出したのはこんな言葉だった――。
「負けたな、と……」

「Jr.ウインターカップ2020-21 2020年度 第 1 回 全国 U15 バスケットボール選手権大会 (大会呼称:Jr.ウインターカップ2020-21)」の男子 2 回戦、西福岡 REBIRTH (福岡) は NLG INFINITY (群馬) と対戦し、53-59で敗れた。冒頭に記したのは西福岡 REBIRTH を率いる鶴我隆博ヘッドコーチの言葉である。負けたな、のあとに、さらにこう絞り出した。
「このチームになって公式戦は新人戦しかありませんでしたが、練習試合を含めて、初めて今日負けたものですから……このチームもやっぱり負けるんだなと」

 対戦した NLG INFINITY には超中学生級、195センチの川島悠翔がいる。第 3 クォーターにダンクをたたき込むシーンを見せた川島だが、彼は単なるビッグマンではない。同じく第 3 クォーターには 3 ポイントシュートを決め、試合中には随所でドライブも決めている。まさに超中学生級のオールラウンダーである。
 高さで劣る西福岡 REBIRTH もそこは十分にケアをしていた。
「川島くんのところは、特にインサイドでのダブルチームはよかったんですけど、外でドリブルを突かせて、ドライブをさせたのが非常によくなかった。そのとき周りの選手が体を張れませんでした」
 川島はこの試合、28得点・22リバウンドをマークしている。

 それでも西福岡 REBIRTH もしぶとく食い下がった。第 3 クォーターには一時12点のビハインドを背負う場面もあったが、そこから脅威の追い上げを見せ、第 3 クォーター終了時には 3 点差、第 4 クォーターの残り 6 分32秒には43-41と逆転に成功している。
 だたもう一歩を強く踏み出すことができなかった。
「予想以上に早く逆転して、選手たちがそこで一息入れることはないと思うんですけど、なんとなくいけるなと思うのがちょっと早すぎたのかなという気はします。そうしたところでの勝負を……今年はなかなかこういう競り合う展開のゲームを戦っていなかったものですから、それも敗因の一つとしてあると思います」
 ここまで負けなしのチームである。勝負の世界に「たられば」はないが、もし「全国中学校バスケットボール大会 (全中)」があって、チームのベースである西福岡中学が出場し、そこで競り合う展開を経験していたなら、また違う結果が生まれたかもしれない。もちろんそれは NLG INFINITY の選手たちにも通じる話であるのだが……。

 鶴我ヘッドコーチは今年度で定年を迎える。これまで全中や「都道府県退行ジュニアバスケットボール大会 (ジュニアオールスター)」を何度も制してきた中学バスケットボール界の “名将” の “先生” としての最後の全国大会はこれで幕を下ろす。
 橋本竜馬 (レバンガ北海道)、金丸晃輔 (シーホース三河)、比江島慎 (宇都宮ブレックス) など多くの B.LEAGUE 選手を指導してきた鶴我ヘッドコーチだが、今も昔も変わらない信念のようなものがある。
「子どもたちの技術的なところは年々上がってきています。ただその個々の技術の向上がチームに反映できているか、将来に反映できているかといえば、そうではないのではないかと思うところもあります。そういう意味では、メンタルの部分も含めて、極端に言えばトップにつながっていけるような指導はしていかなければいけないと考えてきました。小手先の技術も必要ですが、これからもトップにつながっていく技術と精神力を少しずつ意識させていきたいと思っています」
 鶴我ヘッドコーチは “先生” ではなくなるが、福岡に残って、これからもバスケットボールに携わっていくと言う。そして最後にこう口にした。
「来年も違う形でこの場所に戻ってきます」
 名将・鶴我隆博ヘッドコーチのラストダンスは、これから新章の幕を上げる。

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